大人の健康遊具⑧夏の夜のインプレッショニスト
病み上がりの男は、闇夜にメタリカルに浮かび上がり、雨露に濡れ、いつも以上に外灯に反射し煌めくサークルを美しいと思った。
見慣れた場所が初々しく感じる。
近寄りつつ視線を足下に流すと、人生時計が或る時を指し示していた。後半にさしかかっているようで、その先はぽっかり空いた穴。線が途絶えている。これは何を意味するのか、先ほどの眩しさはいずこへ、男は黙と物思いに沈みかけた。
だが考えるのは止めた。蒙昧な観念の遊びは止すんだ。意味なんてない。意味なんて病い、意味なんてまっぴら御免。とにかく握れ。男は乳房を鷲づかみするかのように、指間を力ませ、雨露を拭きもせで、滑り落ちるのを牽制するかのように鉄棒を握った。
いけた。筋肉が軋み、血が薄いせいかひ弱な手応えだが滑落することなく、思いの外に回数はこなせた。頬が弛んだ。
男は夏の終わりの夜空をいちべつだにせで、立ち去り際、視線を再び足下に、線の影を眺めた。
そこには月があった。
秋だ。
水元。