大人の健康遊具⑩「ピンクのベンチ」
横田基地フェンス沿い、福生、ルート16を走り抜け脇道へ、児童公園にしては広い、運動場にしては狭い、ほどよく抜けのよい公園。卸業者の倉庫に囲まれた公園で小休止。近年は宅地化したものの、滑走路の延長に位置する場所だ。 芝生の先にピンクのベンチ。男は車中に目に飛び込んできたベンチ...
大人の健康遊具⑨「夜景と夜警」
工場の夜景はきれいだ。三菱ガス化学の分析センター。建て替えたばかりの工場の非常階段が浮かび上がる。無機質ゆえに温かみを感じる反転した感情世界。男は夜中、きまって鉄棒を握りながら真正面にこの光景を眺める。周囲は東京理科大、マンション群に作り替えられた新興地帯、幅の広いジョギン...
大人の健康遊具⑧夏の夜のインプレッショニスト
病み上がりの男は、闇夜にメタリカルに浮かび上がり、雨露に濡れ、いつも以上に外灯に反射し煌めくサークルを美しいと思った。 見慣れた場所が初々しく感じる。 近寄りつつ視線を足下に流すと、人生時計が或る時を指し示していた。後半にさしかかっているようで、その先はぽっかり空いた穴。線...
大人の不健康遊具
「三島由紀夫か?」 何人かに同じことを言われた。 不惑をまたぐ瞬間、男はボクシングを始めた。 文学青年が自堕落からマッチョを目指す反動、その象徴としての三島であり、お前もかと言いたいのだ。 なまじ日本人の精神構造を学んだゆえの訳知りの言及。そもそも男は文学青年でも退廃的でも...
大人の健康遊具⑦
俺は噛ませ犬じゃねえ。 タイトルマッチの朝、計量タイム。主催者は脈を測りながら、40代最強、パウンド・フォー・パウンドに声をかけた。男の対戦相手だ。 「八月の後楽園ホール、メインマッチ、スーパーフェザー王座のH選手と組みますから。Iさんには階級を落としてもらうことに...
大人の健康遊具⑥
神は死んだ。早いストップだった。 レフリーは見ていた。セコンド陣営がタオルを投げ入れた。 メキシコのボクシング番組のFacebookで知る。ノーガードだが体幹で避けていた。まだやれたんじゃないか。あと20秒でインターバル、切り換えられる、、、。Neryの勝利をメキシコのファ...
大人の健康遊具⑤
大きな桜の樹の下にGスポット。横田基地のゲート前、国道16号沿いの福生、ではない。反対側のエリア、米兵居住地域。 ゲート脇にはちあきなおみに似た女が店番をしていた駄菓子屋がある。店名は「frontier 」。基地の子どもに英語で返す彼女は異色の大人だった。今の男の年齢と変わ...
大人の健康遊具④
見ろ、俺の目を!ニッチもサッチもどうにもブルドックではないか。酒浸りで顔がたるみ、男は翌朝、俺の目から顔をそらす。鏡面バックショット、たるむ尻、男は俺の目をそむける。 「酒や飯は借金だ、ボクサーはあえて借金をして返す、飲んで食って動け」...
大人の健康遊具③
馬乗りにするにはあまりにも巨躯。 人参をぶらさげるには高過ぎやしないか。このギンギラギンにさりげなく握りたいだけなのであるが、主人にお預けをくらい、ひたすら脚力のない足で飛び続ける愛玩犬のような辱しめが堪えられぬ。いや、ほんとうは西洋の拷問具に恐れをなしたのだ。つり輪との戯...
大人の健康遊具②
灰色の世界、しみったれた壁、排風口からのラード臭、もやっとした澱みに、首筋にいやな汗が滲むのを感じながら、いざ渦中に踏み入れ、いきおい鉄棒を握りしめれば、鼻腔の苦しみがフェティシュな癖となり、繰り返すごとに快楽へと変わるのであった。 銀座と八重洲の結界。