軟派雑誌の良心、モノクロ頁から生まれた“幸せの黄色い芸人本”。
芸人の撮影を担当致しました。 六年間続いた軟派雑誌「CIRCUS MAX」のモノクロ単頁の連載対談企画「プチ鹿島の芸人人生劇場」が単行本に。
『芸人「幸福」論』(KKベストセラーズ刊)。
本体の「CIRCUS MAX」は廃刊、この本が男性総合誌「CIRCUS」の最後の灯火。 装丁の第一印象は北斎漫画の江戸庶民の生態スケッチ。当方の趣旨と一致。
天才雑誌編集者の手による良書。軟派雑誌の良心が単行本となって日の目をみる。結果、何よりも純化したピュアな芸人論。 “幸せの黄色い芸人本”。 単頁寸法の連載、そしてプチ鹿島執筆ゆえに“プチ”感覚に凝縮され、濃厚な芸人人生がある種のテンポとリズム、軽快さでもって表されている。 芸人生態プチスケッチ。31組の芸人。 中でも、鳥居みゆきのシュールな愛嬌、ハリウッドザコシショウの芸のフォルムは秀逸で我が最大のツボである。 U字工事は2011年の東日本大震災発生時に大塚の出版社会議室でまさに取材撮影中、震災をともにした生涯忘れられない芸人。この連載撮影で震災以来の対面。今やねづっち、ナイツらと浅草漫才芸人として寄席に立つ。 ねづっちは浅草東洋館で撮影。なぞかけと寄席、その親和力が浅草を活性化。寄席の箱が再評価され続ける流れ、ムーブメントでなく地に足ついた動きと感ず。 猫ひろしは幻のロンドン五輪出場決定時に取材、リオ五輪の前に取材、そしてこの連載でリオ五輪後に取材。いろんなものを突破した稀有なアスリート芸人。 島田洋七師匠は、みずからの漫才を語る際、冒頭に喜味こいし夢路いとしの名を出す。喜味こいし夢路いとしの漫才にはかなわないから、もみじ饅頭、B&Bの爆発力のある漫才が誕生した。我が敬愛の喜味こいし夢路いとし。その素晴らしいかけあい漫才を凌駕したい気持ちが、もみじ饅頭!、続くツービートのコマネチ!、意味不明な爆発的な脱線漫才を誕生させたのかもしれない。横で聞いていて漫才史的な系譜を昇華、最もスリリングな瞬間であった。 がっぽり建設は元落語家ゆえに上下(かみしも)の使い分け、舞台へのマインドに古き良き芸人を感じさせる。 ノッチは愛され芸人。見ているだけで幸せになる。 稲川淳二のモノマネでおなじみのBBゴロ―。漫談が秀逸。じつはマツダスタジアムのこけら落としに呼ばれた元祖カープ芸人。話術が心地いい。
歌物漫才でブレイクを繰り返し、ANZEN漫才登場の道筋も生んだ、どぶろっく。
チャンス大城、どうしようもない駄目さ加減に周りがほっておかない不思議な人間的な魅力。 等など、一つひとつ想い出深き撮影。
単行本という形になるのはある意味で奇跡。
長年に渡り淡々と持続、一気に時代の通底する空気をパッケージ。
職人魂の結晶。なせるわざ也。
(敬称略)