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抜き差しならぬ紙入れー長襦袢に雛人形みずほ寄席.古今亭菊乃丞独演会.2018.2.10



西多摩、瑞穂町の郷土資料館。

みずほ寄席。

今回は特別番組。実家の隣町、席亭さんに案内の電話を頂き、父母を連れて足を運ぶ。

樹齢三百年、けやきの大木の下に建つ。かつて日本狼がこの地にいたという。遠吠えの銅像が大木を守る。通称「けやき館」。地名は駒形富士山。狭山丘陵の西端に位置する。由来は江戸時代の富士講により丘陵西端の六道山を富士に見立てたのか、平野(横田基地)の先に富士の頂きが望めるからか。味わい深い地名である。


狭山の茶畑、蔵持ちの農家の普請がここそこに。武蔵野、八王子-群馬のシルクロード。養蚕業が盛んだった古い街道筋、豪農の跡地につくられた会館。先週末までは瑞穂に暮らした大瀧詠一の回顧展、語る会があったらしい。百十席程の箱、落語の会にふさわしい。

紙入れ 片棒 (仲入り) 文七元結


艶笑噺、滑稽噺、仲入りをはさんで人情噺。


真男の置き忘れた紙入れ。町の若い衆・新吉は、ごひいきの商家のお内儀と内通。旦那の留守の間に逢引きのはずが、お内儀が朱赤の長襦袢一つになったところで帰らぬはずの旦那が思わぬ帰宅、慌てふためき裏口から逃げる。紙入れを忘れたことに気づくが後の祭り。新吉、翌朝になって旦那と対面、気づかれているか気が気でない。我慢できず暇を乞うが、おかしな様子を案じて、面倒見のよい旦那は根掘り葉掘りと問うて離さない。

ついに返答に窮し、居てもたてもいられず事実を話そうとする新吉。そこで、何も知らぬが仏の旦那の横からお内儀が登場。お内儀が白々しくも胸元から紙入れを出し入れしてみせる仕草が、密やかな“企み”、そこはかとない“淫靡”、この期に及んでの“色目”、抜け目のない女の“怖さ”、年増の大胆な胆の“太さ”を醸し出す。


艶笑滑稽噺のおかしみに、菊之丞の女形の芸が浮かび上がる瞬間だ。これみよがしに胸元を叩き、抜き差しては襟合わせを直す、指先の所作に客席も艶笑の頂点に達せられる。二人の男を手練手管にする女の本性。


抜き差しならぬ関係を暗に示す、紙入れの抜き差しにやられる。




耕心館という施設が隣接していた。


けやきに囲まれた江戸末期の豪農の母屋を和洋折衷に改造した建築物を町が買い上げ、レストラン、ギャラリー、ホールにしていた。醤油醸造元であったらしく大きな醤油樽もある。煉瓦製造も営んでいたようで、裏庭には高さ20メートルほどの煉瓦造りの煙突が残っていた。


山野草の生える庭には白い漆喰壁の土蔵。

中に雛人形が飾られていた。

ひんやり薄暗い蔵のなかで浮かび上がる朱赤の世界。



紙入れのお内儀の長襦袢、蔵入り娘の雛人形。

古来、日本の女は朱赤であった。













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