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蛇の目の円と口吸い酒




練習終わりに四人連れ、金町栄通りのおでん屋。


お互い、縄跳びも跳べなった初心者からかれこれ4年。深夜22時、進化を見届けあう同世代のジムメイト。

「帰省は徳島でしたっけ」

「ちゃうちゃう、香川」

「あ、地味にある地理あるある。島根、鳥取みたいな関係。おれの実家の武蔵村山は東村山ですね。志村けんの東村山音頭で。あるある間違え、ありますね」。


21歳の東大大学院へ進学が決まったジムメイト。

院試を前にした彼も、深夜22時過ぎ、ジム練習をともにしてきた。進学ゆえ転居。ともに練習もあと一か月である。


彼のパンチ力は半端ではない。私と同じサウスポー。おでんを食べる手つきをみてみると、右手。聞いてみると、高校までの在阪時代、通っていたボクシングジムでトレーナーに左の利点を説かれ、左にしたという。ジャブの右が道理で強いわけである。

「あ、さてはビジネスサウスポーだな」。

「えへへ(笑)」。

賢いのか容量がいいのか。何の気なしに愉しい。


「なんでボクシングやろうと思ったの?」

同世代のジムメイトが聞く。


高校の頃、ある場面で誰かを助けたいと思ったが何もできない自分がいたとのこと、それがきっかけの出来事。純粋な理由であった。


始めた理由は意外と聞かない、お互いに知らないものだ。

そして、続いてみれば、なんで始めたのか自分でも分からなくなったりするものでもある。

それでいいのだ。


小あがりの卓でおでんをつつく。話が弾む。温む。


蛇の目猪口。徳利を傾け、注ぐと同心円の底の目が波紋でゆらゆらと、燗をつけたゆえにめらめらともするその様を眺めるのが好きだ。

われら、そして二分の一の年端の青年。蛇の目の縁。同心円状の同志。今夜の酒。



銚子がすすむとなぜだか酒がこぼれて猪口が島のように。卓に湖ができる。

覆酒、猪口に返らず。


顔を卓へ持っていき「ズズズっ」。


口ですすって飲む。


蕎麦のようにすすって音を出す呑み方は他にはあるまい。

口吸い酒。酒席の一芸のようになってきた。そこで、あるあるの呑み方に名付けてみるのであった。

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