初席。今年も上野鈴本へ。2018.01.03.
トリは古今亭菊之丞。
鼻提灯で転寝をする熊五郎。
「どんな夢を見ていたんだい?」
「夢?夢なんか見ちゃいねえよ!」
女房に聞かれてから、長屋の兄弟分、大家、奉行さま、高尾山の大天狗へと、めくるめく夢問答。
菊之丞師匠の江戸前の言葉、仕草に魅了されて久しい。四年ほど前は、菊之丞師匠に女形、女房、若旦那風の品(ひん、しな)の人物描写に艶を感じ、そちらのほうに耳目が向いていた。ここ数年、長屋の住人のべ乱暴さがとりわけいきいきと躍動してきて、調子、気風の良さを感じている。やはり落語は長屋の江戸っ子。江戸っ子気質の凄みとテンポがますます増し、品の人物描写との対比が見事に浮かび上がる。長屋の住人、与太郎、旦那、花魁、女房、商人、武士、大家、隠居、棟梁、僧侶、、、。品と気質の引き出しが多い。どんな登場人物も噺のなかで躍動しているのだ。「天狗裁き」は人物の描きわけが見事で、歯切れ、間、テンポ、仕草、上下の目線、、、菊之丞師匠の芸が堪能できる滑稽噺であった。
「で、どんな夢を見たんだい?」
他人の夢の詮索。おかしみと恐怖とが紙一重。
初夢になぞらえた正月らしい演目。
古今亭文菊は「色事根問(稽古屋)」。
男ってぇのは、、、見栄え、至芸、力、評判、、、。
男の甲斐性を茶々を入れては根掘り葉掘り聞く喜六、とぼけて教える甚兵衛。
文菊師匠の飄々としながらも張りのある、おっとりしながらも生気のある艶っぽい甚兵衛が風流で、文菊師匠の持ち味を楽しむ。
柳家喬太郎は「茶代」。
喬太郎師匠が三年ほど前に掘り起こした眠っていた古典演目のようで、持ち時間の短い初席にぴったりの小噺。上方から江戸見物に来た主人と家来。茶屋で茶代をいくら置いていくか、家来の喜助を六助と呼ぶか八助と呼ぶかが六銭、八銭、お代の符丁。主人に呼ばれた名でお代を置いていくことに決めていたが、茶屋の主人にその符丁を見抜かれ、とんでもない切り替えしに困ってしまう喜助であった。古典落語がしっかりしているから、枕、くすぐり、脱線が生きている。いつもながら感心。脱線を楽しみにしているお客が多いと思うが、喬太郎師匠の古典落語の凄みの部分をもっと堪能したいと近頃思う。
蝶花楼馬楽の「しわい屋」。
ケチもここまでくるとあっぱれなもので、お向かいのうなぎ屋の匂いでまんまを食べる滑稽噺。馬楽師匠、演目後に寄席の手踊り、獅子の踊り。寄席の踊りを担う落語家がいるのは素晴らしい。
昨年、二六〇回を超えた船橋・大念寺の月例・年々寄席が幕を閉じた。
地元(市川)の古今亭菊之丞師匠は、正月初席トリをつとめるようになってからも毎月、高座を二席、つとめていた。私はこちらに毎月のように足を運んだ。菊之丞師匠の落語が私の落語の背骨になっているのは幸せだ。
初席もどこか菊之丞師匠に会いに寄席に来た自分がいた。
真田小僧 柳家さん喬
漫談 鈴々舎馬風
色事根問 古今亭文菊(稽古屋より)
漫談 林家たい平(笑点メンバー人間ドック)
長短 古今亭菊太楼
しわい屋 蝶花楼馬楽
牛の子 三遊亭天どん
替わり目 春風亭正朝
茶代 柳家喬太郎
天狗裁き 古今亭菊之丞
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