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小田原の緑、大磯の青。



二月初旬、日帰り取材で箱根、小田原、大磯の歴史的建造物を巡った。


近代建築の洋館、点在する歴史の「白」を訪ねる。白の主題であったが、現地ではまた異なる色が待っていた。

ビードロ玉の如き艶やかなスペイン瓦葺きの屋根。青にも緑にもみえる釉薬。まるで人魚の衣。スペイン様式で造られた三階建ての白いモダンな洋館。元土佐郷士、宮内大臣・田中光顕が昭和12年に建てた邸宅が小田原文学館になっている。


広い屋敷跡。芝生が敷かれ、緑の木々に囲まれた回遊式庭園に建つ。三階へ上りベランダに出ると、緑の屋根瓦を間近に眺む。冬の午後の弱い澄んだ日の光で淡く照り出され、小田原の空に映える。心きらめくはビー玉を見つけた子どもが如し。





小田原を後に大磯へ。


海沿いの通りから勾配を高台にあがる。大磯駅を目前にした場所に大磯迎賓館があった。大正元年、貿易商・木下健平が米国帰りの建築家に依頼した別邸がウェディングレストランになっている。


二階のサンルームへあがると一面のガラス窓から海が見渡せた。メープル色のまだら模様が品を感じるスペイン瓦。目の前の家屋の瓦越しに深く青い水平線が見える。相模湾。椅子に座って眺めると、下界の住居や電柱、道路が消え、空と海の天然色のグラデーション。外界の音は遮断され、冬の澄み切った空気に時が止まる。陰影世界にアールデコの意匠が浮き立つ。窓枠が額縁となり、一幅の絵画を眺めているかのようだ。静かなる色彩画。繁雑な世俗からの解放。幸せな錯覚に立ち去りがたい。



歴史と自然、そこに異国趣味の時代意匠が日常からの異化フィルターとなり、濾過された心象景観。

景観が心象風景となり風土となり郷土となる方程式。


その式に観光が入ると野暮。この類いのものは普及のために紋切り型の言葉を与えると途端に心象世界から堕落する。方程式を意識した途端、無意識下のものが立ち去る。心象を留めるものもやはり言葉であるのだが、心象は心象にてこそ生き続ける。



小田原の緑、大磯の青。


色のインプレッション。




小田原文学館の敷地には田中光顕の和風建築による別邸があり、北原白秋童謡館になっている。北原はもちろん白のインプレッション。


そして小田原に暮らした小説家・尾崎一雄の木造平屋の書斎が移築されていた。邸宅との対比で一層つづまやかに感じる暮らしぶり。窓辺の文机に原稿用紙、筆、眼鏡、そして拳のような文鎮石が主の存在を証明していた。原稿にのる石の量感、感じるレーゾンデートル。





人にも色彩があるらしい。




「からたちの花が咲いたよ

白い白い花が咲いたよ」


平屋の垣根にからたちの木。刺々しい。白い春を待ち望む気持ち、知る。



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