追悼 左とん平のヘイ・ユー・ブルース
私はこの歌が好きだった。
“世の中すりばちだよ、人生はすりこぎだ、お前 BABY!ヘイユー、ホワッチャネーム”
擂鉢と擂粉木のメタファーにやられたのである。
ブルース、労働哀歌。喜劇、をかしみ。“喜”と“哀”が皮膜なブルースであった。
骨太かつニヒルなシャウト、怒りと皮肉のモノローグ、コミカル、ペーソスかつ凄味の笑み。歌う姿が全存在を証明するかのような寸時の人生演劇。
戦前からの社会風刺の芸人の系譜がある。川上音二郎、演歌師、エノケン、チャップリン、トニー谷、、、、。
社会風刺というのは難しい。全存在をかけていないものは上滑る。
左とん平は地の底から湧き上がるかのような熱量をブルース歌唱に昇華していた。
風刺であるが茶化していない。茶化していないが喜劇。喜劇であるが本気。
風刺というより、業の肯定であった。
哀切の情というより何糞の魂であった。
諦念、無念に背を向ける原初。
原初、男性は魂であった。
左とん平のシャウトに魂を見た。
“あんたのお名前何ァんてェの”
トニー谷の時代はマンボであった。
“ヘイユー、ホワッチャネーム?”
左とん平はブルースであった。
“お前は誰だ!“
これは社会の仕組みをつくった顔なしの誰かへの誰何であり、
自分はいったい何者であるかという、自分への誰何。
左とん平は誰何の両義性を見事に歌い上げた。
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
そんなことは分かっている。
そんなことはいいから原初であれ。
“おふくろのオッパイの味、覚えてんのか!?”
左とん平は教えてくれた。
“お前は誰だ!誰なんだ!!!“
ご冥福を。
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