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音楽印象論・エリック・サティ「3つのグノシエンヌ 第1番」

辺境のオリエンタルを思い起こさせる音の響きが、アバンギャルドな音の配置と出合い、序の口から聴き手を幻惑な異次元に招き入れ、メランコリックな精神世界へみちびく。

音の影を追うかのように「広場」から「路地」へとみちびかれ、気づくと奥深く入り込んでいるが、いつのまにか広場に戻っている自分がいる。迷路のような路地にて影を追い、幻惑するおのれを俯瞰している自分、その姿が脳裡に映し出された途端、安堵感に包まれる。

音が、進行しているかのようで、「時の間」と戯れながらも、いつまでもここそこに留まっている。まるで闇夜の蛍のように、ぼんやりと明滅しながら浮遊している。開かれているのに閉じている旋律の世界。



「不安」と「安らぎ」の表裏が、反転を繰り返しながら伸び縮みし、移ろい、揺らいでいる。調和しないはずの両者の像が、揺らぎのなかで刹那刹那に重なりあうが、そのまたたく間、すぐさま交差し離れ、漆黒に消える。



技巧、抒情的なメロディーを排除した簡潔な進行と、試みられた革新的な音階の運び、基調づくる不協和音の響きが、高潔な精神性を抽出し、内面的鏡面となる「心象風景」を生み出すサティ―の作曲美。演者は心の動きを情緒豊かに表現することを抑制され、聴き手は演者の心の作用の影響を受けることなく、自立した音そのものの美しさを、心理的負荷なく、素直に受容できる。


蛍を手でつかんだと思った刹那、手のひらを開けば消えている。手繰り寄せてもすり抜けられる。虚空をつかむ。知の神秘。


迷宮回廊。闇夜蛍。不安と安の振り子。メランコリックな揺り籠。

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